三味線の最初の曲は、曲名だけでなく、手元の教材で使う奏法と演奏する範囲を見て選びます。好きな曲や知っている旋律は候補になりますが、同じ曲でも編曲や教材によって取り組む内容は変わります。まずは入門教材から候補を選び、その中の短い一節を確かめましょう。
このページでは、実際に刊行されている教本を例に、曲の長さ、勘所の移動、奏法、譜式を見て絞り込む方法を紹介します。全ジャンルに共通する難易度ランキングではありません。教室で課題が決まっている人は、その課題のどこから取り組むかを考えるときにも使えます。
さくらさくらも教材によって入口が違う
最初の候補を探すなら、鈴木楽器製作所の『三味線教本 初級』には「ちゅーりっぷ」「さくらさくら」「かごめかごめ」などが載っています。初めて三味線を学ぶ人を対象にした本なので、知っている曲を使う教材を探すときの候補になります。ただし、本の中には進んでから取り組む内容も含まれます。掲載曲すべてを、初日に弾く曲とは考えないでください。
同じ出版社の『三味線教本 中級』にも「さくらさくら」が載っています。こちらは二上りやハジキなどを扱う中級者向けの教本です。曲名が一致することから、初級と同じ練習内容だとは判断できません。どちらの本で、何を学ぶためにその曲を使うのかまで確かめましょう。
この比較で分かるのは、曲名だけでは教材の段階を決められないことです。二つの譜面をまだ見ていないなら、音数や運指が具体的にどう違うかまで推測する必要はありません。対象者、目次、実際の譜を順に見れば、確認できたことと、これから確認することを分けられます。
弾きたいジャンルの学び方から候補を探す
津軽三味線を学ぶ人には、『久保木脩一朗の津軽三味線教本』のように、なじみのある旋律から入る教材があります。収録曲には「トロイカ」「春の小川」「メリーさんの羊」などがあり、初級では五線譜と三味線譜を併用します。模範演奏CDも付いているため、使う譜と対応した音源をそろえる候補になります。
同じ本には、津軽じょんがら節の基礎曲や前弾きなども収録されています。これらは本に載っている順序や学習内容を見ながら進む対象です。「津軽の教本に載っている曲」というだけで、どれも今すぐ同じように始められるとは限りません。
長唄では、一曲を最初から選ぶ前に、短い旋律の型を学ぶ方法もあります。『フレーズで覚える三味線入門』は、開放弦の弾き分け、勘所を使うフレーズ、複数の糸を使うフレーズなどを経て、実際の長唄曲の一部へ進む構成です。長い曲に興味がある人も、その中で使われる短い動きから取り組めます。
地唄、義太夫、小唄、民謡などを習う人も、まずは対象ジャンルの入門教材や教室の課題から選びます。他のジャンルの人気曲リストを、習う順番としてそのまま使う必要はありません。すでに課題があるなら、曲を増やす前に、その教材の短い範囲で何を練習するかを決めましょう。
短さは演奏時間と練習する範囲を分けて見る
一曲の録音が短くても、途中に初めての奏法が続く場合があります。反対に、長い曲でも、先生が指定した一節だけなら取り組む範囲を小さくできます。録音の分数だけで選ばず、今日練習する始まりと終わりを譜面や教材で確かめます。
たとえば「一ページ練習する」より、「一行目の始めから、次の休みまで」と決める方が、同じ範囲を見つけやすくなります。譜面の見た目だけで切ると、前の音から続く動きの途中で区切ることもあるため、見本を聴いて、教材が示すフレーズのまとまりと照合しましょう。
似たフレーズが繰り返される曲では、同じ部分を使って復習できます。ただし、最後の一音や休みだけが変わることも考えられます。実際の譜で一致する範囲を確認し、同じように見えるからと全部を同じ動きで弾かないようにします。
糸の移動と奏法を一つずつ確かめる
候補が決まったら、使う糸、勘所の範囲、奏法の記号を見ます。文化譜なら、どの線に数字があり、どこで線が替わるかを追いましょう。勘所の数字と指番号を分け、まだ習っていない指定には印を付けます。
数字が少ない譜でも、糸を替える動きや、離れた勘所へ移る動きが必要な場合があります。また、スクイやハジキの記号があれば、音の高さを読むだけでは演奏の動きまで決まりません。音符の数だけを数えて「簡単」と判断せず、どこに新しい課題があるかを探します。
次は、選び方を説明するための架空の比較です。候補Aの一節は、習った糸と二つの勘所で弾ける範囲です。候補Bの一節には、まだ説明を受けていないハジキがあります。今日一人で復習するならAを選び、Bは新しい奏法を習う課題として残す、という選び方ができます。
Bを難しい曲としてずっと避ける必要はありません。「この記号のところを習えば始められる」と分かれば、次の稽古で聞く内容が具体的になります。逆にAを選んでも、音程やリズムが整っているかは別に確かめます。知っている動きだけの一節にも、復習する内容はあります。
音の長さと調弦の変更も見る
次に、短い音が続く箇所、休符、拍子や速さの指定を確認します。知っている歌でも、教材のリズムが記憶と同じとは限りません。見本の音源と譜を合わせて読み、休む位置も含めて確かめましょう。
文化譜の下線の読み方を習った人は、楽器を持つ前に短い一節の長さを数えてみます。読めない記号があるなら、その箇所は新しい学習内容です。細かい音が多いことだけで諦めず、まずは何を数えられて、何がまだ分からないのかを分けます。
曲の初めの調子名と基音に加え、途中に調弦を変える指示があるかも見ます。途中変更をまだ習っていない場合は、その前までを課題にできるか、別の入門用の編曲があるかを確認しましょう。自己判断で調弦の指示を飛ばしても、同じ曲を同じ形で弾くことにはなりません。
読める譜式と対応した見本をそろえる
文化譜を学んでいる人なら、まず文化譜の教材から探すと、すでに知っている記号で確認できます。研精会譜や青柳譜など、別の譜式では数字の意味が違う場合があります。好きな曲の画像が見つかっても、名前と凡例を確かめてから使いましょう。
見本の音源は、同じ曲名だけで選ばず、教材の版や演奏する部分に対応しているかを見ます。独奏の譜に、別の人が唄を伴奏した録音を合わせると、演奏する箇所や進み方が違うことがあります。教材に対応音源が指定されていれば、まずはそこから確かめます。
音源や譜面を無料で入手できるかどうかと、今の練習に合うかどうかは別の条件です。配布元の説明を読み、譜式、対象者、収録範囲が分かる教材を選びましょう。このページでは、特定の無料譜やアプリ内の曲が現在利用できることまでは案内していません。
今日取り組む一節を決める
最後に、選んだ曲の教材名と版、練習する範囲、習った動き、まだ習っていない動きを一つのメモにまとめます。たとえば「この教本のこの一節。勘所は習った範囲。休みの長さを確認したい」と書けば、次にすることまで決まります。
知っている旋律を入口にしても、好きなジャンルの短いフレーズから始めても構いません。曲名を決めた後に、手元の版と自分の既習内容を見比べ、今日取り組める一節まで絞りましょう。全曲を一度に選び直すより、今の課題を一つ確かめてから範囲を広げられます。
参考資料
入門曲と対象段階の例は、鈴木楽器製作所の三味線教本 初級と三味線教本 中級を参照しました。曲ごとの譜面を比較した難易度評価ではなく、出版社の対象者と収録曲の案内に基づく例です。
津軽三味線の教材構成は、ヤマハの久保木脩一朗の津軽三味線教本、長唄のフレーズ学習は音楽之友社のフレーズで覚える三味線入門の内容紹介と目次を参照しました。譜式と調弦の区別は、松永鉄九郎氏の唱歌・譜の種類と調弦法を参考にしています。