三味線の楽譜は、数字が書かれていても同じ読み方とは限りません。文化譜は糸を押さえる場所を数字で示し、研精会譜や青柳譜はドレミにあたる階名を数字で示します。同じ「3」を見ても、譜式によって読み取るものが違います。
手元の譜面を見分けるときは、表紙にある名前と、記号の説明である「凡例」を確かめましょう。ここでは文化譜、研精会譜、青柳譜、家庭式譜の仕組みを比べ、初めて見る譜面のどこから読めばよいかを説明します。
数字が示すのは押さえる場所か音の関係か
勘所(かんどころ)は、糸を押さえて音を変える位置です。勘所譜の数字を読むと、「この糸のこの場所を使う」という演奏上の位置が分かります。ただし、その位置から出る音の高さには、糸の種類と調弦が関わります。数字だけで実際のドレミが決まるわけではありません。
階名(かいめい)は、ドレミのように音の関係を呼び分ける名前です。階名を数字にする譜では、1がド、2がレ、3がミという対応を使います。数字から先に音の関係を読み、どの糸のどこで弾くかは、その譜の糸指定と調子を合わせて判断します。
たとえば文化譜の3は「3の勘所」、研精会譜の3は「ミにあたる階名」です。数字の形が同じでも、一方の読み方をもう一方へそのまま移せません。三本の線があるかどうかを見るだけでなく、数字の意味を確かめる理由はここにあります。
文化譜は横の三本線で糸と勘所を読む
文化譜(ぶんかふ)は、三味線の糸に対応する横線に、勘所の数字を記した譜です。現在の横書き三線の形では、上の線が三の糸、真ん中が二の糸、下が一の糸にあたります。糸を押さえずに鳴らす開放弦は0で表します。
たとえば真ん中の線に3があれば、「二の糸の3の勘所」と読みます。真ん中の線に0があれば、「二の糸の開放弦」です。3という数字が三の糸を示すのでも、0が休みを示すのでもありません。線と数字の役割を分けて読むと、弾く糸の取り違えを防げます。
同じ番号は各糸の勘所に使われます。一の糸の3と三の糸の3は、棹上の対応する位置を示しますが、同じ高さの音という意味ではありません。さらに調子を変えると、同じ糸の同じ番号でも音の高さが変わる場合があります。
文化譜は、四世杵家彌七が考案した譜で、譜本の表紙の色から「赤譜」とも呼ばれます。ただし、購入や相談の際は色だけを頼りにせず、曲名、編著者、出版社、改訂の表示を確かめましょう。刊行物にはA4判とB5判などの違いもあります。判型は本の大きさを示す情報なので、改訂や版の情報とは分けて控えます。
研精会譜は階名を数字にした縦書きの譜
研精会譜(けんせいかいふ)は「小十郎譜」とも呼ばれます。ドレミファソラシを1から7の数字で表し、必要に応じてⅠ・Ⅱ・Ⅲで糸を指定します。数字そのものは勘所番号ではないため、文化譜の位置を当てはめて読まないようにしましょう。
この譜では、一の糸の開放弦をシとする表記を基準にします。たとえば本調子の二の糸の開放弦はミにあたる3です。二上りでは二の糸の音が上がるため、開放弦でもファのシャープにあたる表記へ変わります。文化譜ならどちらの開放弦も0と書くので、ここに二つの譜式の違いが表れます。
ここでいうシやミは譜を読むための基準です。手元の三味線を必ずその絶対的な音高に合わせる指定ではありません。また、数字に付くシャープやフラット、オクターブの点は数字と一緒に読みます。点を見落とすと、音の高さの範囲まで変わってしまいます。
青柳譜は縦の三本線に階名を置く
青柳譜(あおやぎふ)は「弥之介譜」とも呼ばれ、階名を数字で表す原則は研精会譜と同じです。糸の指定には縦の三本線を使い、その線上に数字を置きます。横線に勘所番号を書く文化譜とは、線の向きに加えて数字の意味も違います。
青柳譜で3を見たときも、まずミにあたる階名として読みます。どの糸を使うかを線で確かめ、調子を踏まえて勘所を考えます。「三本線と数字だから文化譜」と覚えてしまうと、この読み分けができなくなります。
青柳式には、長唄の『喜撰』などの刊行譜があります。譜式名だけから、特定の民謡や「青柳流」専用の譜面だと判断するのは避けましょう。曲名と譜式名は別の情報です。表紙に「弥之介譜」とあれば青柳譜の別称、「小十郎譜」とあれば研精会譜の別称として探せます。
家庭式譜は字体と枠にも注目する
家庭式三味線譜は、地歌譜と呼ばれることもある勘所譜です。縦書きの枠を使い、数字の字体で糸を区別する形が見られます。文化譜のように、横線の上下だけで糸を判断する読み方とは異なります。
和楽器研究会が説明する家庭式譜では、三の糸に算用数字、二の糸に漢数字、一の糸ににんべん付きの漢数字を使います。開放弦は各糸の「いち」で、三の糸は1、二の糸は一、一の糸はにんべん付きの一です。鈴木創さんが紹介する生田流宮城派の譜も、この書き分けです。
このため、縦譜にある算用数字の1を、文化譜の「1の勘所」と読んでしまうと意味が変わります。数字の値だけでなく、算用数字か漢数字か、にんべんがあるかまで見ましょう。リズムは枠の区切りでも表すため、数字の間隔だけで長さを推測せず、使う本の枠の読み方を確認します。
家庭式の細かな表記を、すべての流派や刊行譜に一律に当てはめることはできません。まずは「字体で糸を分ける」「開放弦が0とは限らない」「枠にも意味がある」という見分け方を持ち、手元の凡例へつなげてください。
初めての譜面は三つの点から見分ける
表紙や奥付の名称を確かめたら、本文で「糸の指定」「数字の意味」「開放弦の書き方」を探します。代表的な違いを短く並べると、次のようになります。
- 文化譜は横の三本線で糸を示し、数字は勘所、開放弦は0です。
- 研精会譜は数字で階名を示し、必要に応じてⅠ・Ⅱ・Ⅲで糸を指定します。
- 青柳譜は数字で階名を示し、縦の三本線で糸を指定します。
- ここで紹介した家庭式譜は字体で糸を分け、数字は勘所、開放弦は各糸の「いち」です。
三味線には五線譜を使う記譜もあり、この四つで全部ではありません。一覧に名前がなくても、似た譜式へ無理に当てはめる必要はありません。教材名や編著者を手がかりに、その本に対応する説明を探しましょう。
学ぶ一冊を決めたら短い箇所を読む
教室で使う譜面が決まっているなら、まずその譜式と版に合わせます。独学用の教材も、弾きたい音楽、譜式の解説、対応する音の見本がそろっているかを確認しましょう。別の譜式へ変換するより、最初の短い例をその本の読み方で理解するところから始められます。
読み始めは、一音について「どの糸か」「数字は位置か階名か」「長さや奏法の印が付いているか」を順に確かめます。分からない印が残ったら、曲名、編著者、版、ページと一緒に控えます。「数字の3が分かりません」より、「この小十郎譜で3に付いた点の意味が分かりません」と聞くほうが、必要な説明を絞れます。
すべての譜式を一度に覚えなくても構いません。今使う一冊を読み、別の譜式に出会ったときに数字の意味を確かめ直すことが、読み違いを減らす第一歩です。
参考資料
譜式の分類と文化譜・研精会譜・青柳譜の原則は、松永鉄九郎 三味線のしおり 楽譜を参照できます。横書き文化譜と家庭式の比較には、三味線を用いた現代作品の分析的研究 本文18頁も参考になります。
家庭式の具体例は、和楽器研究会 三味線の楽譜についてと鈴木創 お三味線の楽譜の読み方で確認できます。刊行譜の名称や版は、杵家彌七出版の案内とマザーアース 長唄 喜撰に掲載されています。