三味線のビリビリした音が気になったら、まず「どの糸を、どう弾いたときに、どのように聞こえるか」を分けます。三味線には、一の糸をわずかに接触させて響かせる「さわり」があります。この響きを、すべて取り除く必要はありません。一方で、棹の減りや継ぎ手の不調でも、似た音が出る例があります。
音の名前だけで、正常か故障かを決めるのは難しいものです。普段からある響きなのか、急に加わった音なのか。開放弦でも聞こえるのか、特定の勘所でだけ起きるのか。順に記録すると、先生や修理店へ確かめてほしい点を伝えられます。
さわりは本来の音色に含まれる
山さわりの仕組みでは、二と三の糸が上駒に乗るのに対し、一の糸はさわり山にわずかに触れます。糸が振動して触れたり離れたりすることで、ビーンと響く音が加わります。東京藝術大学の上方落語の三味線の教材で、この構造を確認できます。
東さわりは、ねじで接触部分の高さを変える別の仕組みです。三味線によって備わる機構が違うため、「ビリつくならこのねじを回す」という一つの方法をすべてに当てはめないようにします。構造が分からないときは、購入時の仕様や上駒付近の写真で確認します。
また、二や三の糸を弾いたときにも、ほかの糸との共鳴が関わります。「二の糸を弾いたのだから、一の糸のさわりとは無関係」とは決められません。どの糸を弾いたかと、どこから響いているように聞こえたかは、別の情報として残します。
まず変化に気づいた時点を思い出す
初めて三味線の音を近くで聞いたときと、使っている楽器に急に別の音が加わったときでは、確認の出発点が違います。前者なら、その楽器の通常のさわりを先生に弾いてもらうと比較できます。後者なら、最後に普段どおりだった時期を控えます。
糸や駒を替えた直後、調弦を変えた後、移動や修理の後など、気づく前に変わった条件を書き出しましょう。何も変えていなければ、「変更なし」と残します。時間が近いことは手がかりですが、その変更が原因だと証明したことにはなりません。
この段階で全部の部品を元へ戻したり、さわりを調節したりすると、最初の状態が分からなくなります。まず今の糸、駒、調子と基音を記録します。音だけでなく、普段と違う押さえにくさや部品の動きがあったかも添えます。
音を出す前に目で見える異常を確認する
明るい場所で、糸、駒、皮、棹の接合部を見ます。糸のほつれや切れかかり、駒の欠け、皮の破れ、部品の外れが見えた場合は、音の比較を続けずに点検へ進みます。落下や衝撃の後に音が変わった場合も、その経緯を先に伝えましょう。
駒は、普段使っているものか、向きと位置が教わった状態か、糸がそれぞれの溝に乗っているかを見ます。確信が持てなければ、その状態を撮影します。音を消すために駒を押し付けたり、皮を押して張りを確かめたりする必要はありません。
継ぎ目が動く、金具が外れかけている、皮に破れがある場合は、録音のための試し弾きもしません。状態を変えずに撮れる外観写真だけで、最初の相談を始められます。
問題が見えなければ開放弦と押さえた音を分ける
通常どおり安全に構えられる状態なら、習っている音量で一の糸、二の糸、三の糸を一音ずつ鳴らします。開放弦とは、左手で棹の上の糸を押さえずに弾く音です。一本を鳴らした後は余韻を聞き、次の音と重ねずに記録します。
次に、練習中に違和感が出た勘所を、普段の押さえ方で確認します。よく分からない位置を次々に強く押す必要はありません。「開放音でも出る」「この勘所でだけ出る」「隣の勘所では気づかない」のように、確かめられた範囲を書きます。
特定の勘所でさわりのような音が出る場合、棹の表面の減りが関わる例があります。亀屋邦楽器は、深く減った箇所へ糸が入り込むと、さわりが付いたように聞こえると説明しています。狙って作るさわりと、押弦部で起きる音を、名前だけで一つにまとめないようにしましょう。
弾いた瞬間の音と続く響きを聞き分ける
「ビリビリ」だけでなく、音の出る時点も控えます。撥が糸に触れた瞬間にキーッと聞こえるのか、音を出した後も細かな響きが続くのか、余韻の途中で音が割れるように感じるのか。感じたままの言葉で構いません。
撥で弾いたときのキーキーした音について、亀屋邦楽器は、撥先がぎざぎざになっている場合の修理を案内しています。撥を使うジャンルでは、楽器本体と一緒に撥も確認の対象になります。異音を出しているのは棹だと、初めから絞らないことが大切です。
一方、継ぎ手の緩みでビリつく例も、製作者から説明されています。聞こえた場所へ耳や顔を近づけて探すより、普段の構えで気づいた位置と、外観の変化を残します。音の似方だけから、撥、棹、さわりのどれかを断定しないようにします。
糸の変化をさわりの調整不足と決めない
一の糸が切れていなくても、さわりと接する部分が減って、響きが付きにくくなることがあります。菊岡中むらは、そのような糸の劣化例を紹介しています。前と違う響きには、機構の調節だけでなく、糸の状態も関係するということです。
糸の品名、素材、番号、交換日が分かれば控えます。見える毛羽立ちなども写真に残しましょう。糸を強く引いたり、ひっくり返したりして見えない面を探す必要はありません。交換が必要かは、今の状態と使う糸を確認してから判断します。
さわりのねじを回しても変わらないからと、さらに回す、接触面を削る、継ぎ手へ物を挟むという進め方は避けます。複数の条件を一度に変えるより、どの条件で気になる音が出るかを先に共有します。
録音には弾いた条件も残す
録音できる安全な状態なら、最初に「二の糸、開放」「二の糸、この勘所」のように声で区別し、音の間を空けて短く録ります。普段気になる音量で十分です。症状をはっきりさせようとして、強く叩き続ける必要はありません。
同じ機器、置き場所、録音距離を保ち、音を整える加工はせずに残すと、同じ録音内の比較がしやすくなります。録音と一緒に、楽器の種類、調弦、糸と駒、発生した糸と勘所を伝えます。録音だけでは見えない接合部や皮の状態も、写真で補います。
先生には、そのジャンルで通常の響きか、押さえ方や撥の当て方による変化かを見てもらいます。新たな部品の動きや、特定箇所で続く不調は修理店にも共有しましょう。「異音を消したい」より、「以前と比べてこの条件で違う音がする」と伝える方が、必要な確認へ進みやすくなります。
参考資料
さわりの構造は東京藝術大学の上方落語のさわりと東さわりの例、共鳴は日本芸術文化振興会の文楽教材を参照しました。
似た音が出る例は亀屋邦楽器のカンベリ修理と撥音のFAQ、東京和楽器の継ぎ手の説明を参照しました。糸の変化は菊岡中むらの糸の劣化具合、準備と注意はスズキのききょう取扱説明書で確認できます。