三味線でいう「四本」や「六本」は、一の糸の基準となる音の高さを表す呼び方です。長唄などで使う、一本をAとする体系では、四本はC、六本はDに当たります。三本ある糸の数や、糸を押さえる位置の番号とは別のものです。
「四本の本調子」と書かれていたら、四本と本調子に分けて読みます。四本は一の糸の高さ、本調子は三本の糸の音程関係を示します。この二つを確かめてから、それぞれの糸の目標音を読み取りましょう。
ここでは、長唄の教材と三味線用チューナーに掲載された本数の対応を使います。「何本」という呼び方は津軽だけのものではありません。一方、義太夫では数え方が異なるため、後半で例を分けて説明します。
本数は一つ増えると半音高くなる
一本をAとする数え方では、一本、二本、三本、四本の順に、A、B♭、B、Cと進みます。本数が一つ増えるごとに半音高くなります。「四本だから四本の糸を使う」「六本だから六番の位置を押さえる」という読み方はしません。
本数は一の糸の開放弦を基準にします。開放弦は、棹の上で糸を押さえずに鳴らした音です。一本の糸を指で押さえて変える音と、糸を張る高さを変えて決める基音を分けると、本数と勘所を混同しにくくなります。
同じ曲でも、歌い手や共演する楽器に合わせて基音を決めることがあります。本数を聞くのは、その演奏で使う出発点をそろえるためです。「男性ならこの本数」「女性ならこの本数」と一律に決めるのではなく、今回の演奏の指定を確かめます。
一本をAとする本数と音名の対応
次の対応は、長唄などの一本をAとする体系に限ります。英音名は、固定した音名としてAをラ、Bをシ、Cをドと読む表記です。ドレミを移動させて読む方法とは区別してください。
- 一本 A 二本 B♭またはA♯ 三本 B
- 四本 C 五本 C♯ 六本 D
- 七本 D♯ 八本 E 九本 F
- 十本 F♯ 十一本 G 十二本 G♯
♯はその音の半音上、♭はその音の半音下を表します。二本をB♭と書く教材も、A♯と表示する機器もあります。十二平均律の音名としては、この二つは同じ高さです。ほかの♯を含む音にも別の書き方がありますが、上では参照した表に合わせています。
一つ増えるごとに半音なので、四本から五本はCからC♯、五本から六本はC♯からDです。四本から六本までなら半音二つ分、つまり全音上がります。CからDへ移ることを「一本上げる」と数えない点を、隣り合う本数で確かめておきましょう。
この一覧は音名を読むための対応です。全行を順番に手元の三味線で試す練習表ではありません。楽器や糸に合う調弦の範囲は別に確かめ、表の最大値まで張ってよいとは考えないでください。
四本調子と本調子を分けて読む
「四本調子」という言い方にも調子の二文字が入りますが、ここでは基音が四本という意味です。「本調子」は、三本の糸の関係についた名前です。四本の本調子、四本の二上り、四本の三下りは、すべて一の糸をCとする例になります。
音の関係だけを比べるなら、四本の本調子はC・F・C′、四本の二上りはC・G・C′、四本の三下りはC・F・B♭です。糸は一、二、三の順に並べています。C′は最初のCより一オクターブ高いCで、三下りのB♭はそのC′の全音下です。
同じ四本でも、二の糸や三の糸の音は調子によって違います。反対に、四本の本調子を六本の本調子へ移すと、音名はC・F・C′からD・G・D′に変わります。三本の関係は保ったまま、基音を変えた例です。
調弦の指示をメモするときは「四本」だけで終えず、「四本の二上り」のように両方を残します。さらに教材名や曲の箇所を添えれば、どの指定を写したのか後から確認できます。
音名にオクターブを添えると高さが明確になる
Cという音名は、低い音域にも高い音域にもあります。そのため、音名だけを見てチューナーの針が中央に来ても、課題と同じ高さだとまでは言えません。教材の見本音や、オクターブまで指定された目標を合わせて確認します。
たとえばKORGの三味線用WT-30Sは、一本側の基音を110.00Hzとする設定範囲を持ち、仕様では110.00HzをA2と表記しています。この音域を使い、基準ピッチをA4=440Hzとした十二平均律の四本を考えると、一の糸はC3です。ここから先は、この条件を明示した音名例です。
この条件での四本の本調子はC3・F3・C4、二上りはC3・G3・C4、三下りはC3・F3・B♭3となります。C3とC4のように同じ文字でも、末尾の数字が違えば音域が違います。これはWT-30Sの全表示を再現したものではなく、音域を添えて書いた目標音の例です。
最初の一覧へ無条件でオクターブ番号を付けなかったのは、本数と音名の対応を、手元の楽器への高さの指定と混ぜないためです。例のC3を全員の開始音にせず、実際には教材、楽器、演奏の指定を確認してください。数字の付け方が違うソフトを併用するときも、文字と数字の見た目だけで同一と決めず、見本の実音を照合します。
義太夫の本数へ同じ一覧を当てはめない
義太夫では、上の一覧と本数の数え方が異なります。松永鉄九郎さんの比較表では、長唄などの六本に当たるDを、義太夫の一本として示しています。同じ「一本」という言葉でも、長唄などのAと義太夫のDを取り違えることになります。
その表では、長唄などの一本、二本、三本に当たるA、B♭、Bを、義太夫では表一本、表二本、表三本と記しています。「表」の有無も含めた呼び名なので、省いて同じ数字に直すことはできません。
別ジャンルの教材に移ったときは、本数だけを持ち越さず、その教材が使う対応表を見ます。「一本を何の音とするか」「表という言葉が付くか」を確かめると、最初の取り違えを避けられます。義太夫の実際の調弦は、その音楽の教材と指導に沿って確認しましょう。
譜面の指定を三つの情報に分けて控える
手元の譜面では、まず使っている本数の体系を確かめます。次に「何本」と「本調子などの調子名」を分け、最後に一の糸の実際の高さを見本音や音名で確かめます。この順に読むと、分かっている部分と不足している部分がはっきりします。
たとえば「長唄の教材、四本、二上り」まで分かったなら、一の糸はC、残りはGと高いCという関係まで読めます。そこへ教材が指定するオクターブと、共演時の基準ピッチの設定を添えれば、チューナーに合わせる目標を具体的に書けます。
一方、「本調子」しか書かれていない場合は、本数まで決まったとは言えません。「この曲は本調子ですが、一の糸は何本の、どの高さに合わせますか」と確認できます。本数、調子、実際の高さを分けて伝えることが、音合わせを始める準備になります。
参考資料
本数と義太夫の対応、基音と三調子の区別は松永鉄九郎 三味線のしおり 調弦法を参照しました。半音ごとの本数と調弦例は三萃園の調弦解説、歌い手や共演楽器に合わせる考え方は洗足学園音楽大学の三味線解説でも確認できます。
機器の音域を添えた例はKORG WT-30Sの仕様と調弦早見表を参照しました。表記の対応を説明するもので、機器の測定範囲を楽器の許容範囲として示してはいません。