三味線の保管場所は、湿気だけでなく、乾燥、日差し、空調の風まで見て決めます。天然皮を張った楽器では、皮の状態に加えて木製の棹や胴も考える必要があります。人工皮の楽器でも、木部や接合部まで水分や熱に強いとは限りません。
まず置き場所を点検し、その後で袋やケース、必要な管理用品を確認しましょう。保管用品を増やす前に、ケースへ日が当たる、暖房の風が直撃するなど、場所の問題を取り除くことが先です。ここでは、自宅の環境を見直す順序と、しばらく弾かない場合の準備を説明します。
天然皮は、湿気と乾燥の両方を考える
天然皮は、木でできた胴に張られています。皮張師の美邦堂は、猫や犬の皮が湿気を吸ったり乾燥したりする過程で、破れや剥がれが起こると説明しています。「湿気を避ける」と聞いて、できるだけ乾燥させればよいと考えないようにしましょう。貸与楽器用の取扱資料でも、湿度の高すぎる環境と乾燥しすぎる環境、大きな寒暖差のいずれにも注意を促しています。
このため、保管場所は一日の一場面だけで判断しないほうがよいでしょう。夜には涼しい窓辺でも、昼には直射日光が当たるかもしれません。冬に暖房を入れる時間だけ、風の通り道になる場所もあります。しまった時刻の状態に加え、普段楽器を見ていない時間帯の様子も確かめます。
人工皮の場合は、製品の説明で何が人工素材なのかを見ます。たとえばスズキの三味線「ききょう」MS-10S・MS-10M・MS-10Lは合皮を使いますが、棹と胴は木製です。説明書では、水分や湿気の多い場所、極端に熱くなる場所、ほこりの多い場所を避けるよう指定しています。皮の特徴と、楽器全体の保管条件を分けて読む例です。
家の中で、置き場所を三つの観点から見る
最初に、日差しと風を見ます。候補の場所へケースを置く前に、日中に日が差すか、冷暖房をつけると直接風が当たるかを確認してください。風向きを変えても別の時間帯に当たる場合は、置き場所自体を変えるほうが確実です。窓辺、暖房器具のそば、エアコンの吹き出し口の前は、特に実際の状態を見て判断しましょう。
次に、水気の有無を見ます。窓の結露、雨が入りやすい場所、壁や床の湿りを確かめます。押し入れなら必ず安全、居間なら湿気が多いといった決め方はできません。ケースを置く面と、その周囲に水気がないかを見て候補を絞ります。
最後に、ケースの安定と出し入れを確かめます。人が通るたびにぶつかる場所や、上に物を重ねる場所は避けましょう。取り出すために毎回荷物を動かす必要があると、ケースを不安定な場所へ仮置きしがちです。水平な場所で蓋を開けられる空間まで含めて、収納場所を決めます。ケースを立てる向きや固定方法は、そのケースの指定に合わせてください。
たとえば、夜の練習後はいつも窓際へ片づけていたとします。翌日の昼にケースへ日が当たると分かったら、まず直射日光の当たらない場所へ移します。乾燥剤を増やして同じ場所を使い続けるより、原因が分かっている置き場所の条件を変える考え方です。
袋とケースは、楽器に合った組み合わせで使う
袋や胴板の使い方は、購入時や貸し出し時の説明を確認します。ケースへ収める前に使う物も、保管方法の一部です。手元に複数の袋があるからといって、全部重ねるのが適切とは限りません。
ビニール袋には相反する案内があります。邦楽普及拡大推進事業の資料は、同事業の貸与楽器に、和紙袋、ビニール袋、長袋を使うよう指定しています。一方、三萃園のメンテナンス案内には、ビニール袋で保管しないという動画目次の項目があります。どちらの説明も対象と条件を確認する必要があるため、袋を足す・外すことをすべての楽器に共通する手順にはできません。
今の収納方法が分からなくなった場合は、袋と胴板を並べた写真、ケースへ収めた状態の写真を用意すると、確認したい物が伝わります。新しく袋を買う前に、何を残し、何を交換するのかを購入店や貸し出し元に確かめましょう。
ケースを開ける機会には、内張りと袋も見ておきます。湿り、普段と違う汚れやにおいがあるなら、楽器だけを点検して終えないでください。どこに変化があるかを残し、楽器と収納用品を一緒に相談します。
温湿度計は、場所の変化をつかむために使う
温湿度が気になる場合は、保管場所の近くで測り、時刻と部屋の状況を一緒に控える方法があります。冷暖房を使う前後、雨の日と晴れの日など、同じ場所で条件の違う時点を比べると、自宅でどんな変化が起きるかを説明しやすくなります。
記録には、測った場所を必ず書いておきましょう。「ケースの横で測定」と「ケースの中で測定」は別の記録です。部屋の数値を、そのまま閉じたケース内の数値として扱わないでください。測定場所や使う計器を途中で変えた場合も、そのことを残します。
数値だけでは、その楽器に適した環境かを決められません。取扱説明に温湿度の指定があるなら、対象の型番や皮の種類と、どこで測る条件なのかを確かめます。指定がない場合、別の楽器の記事にある数値をそのまま目標にするのは避けましょう。楽器の仕様や収納方法の条件をそろえずに、温湿度の数字だけを共通の目標にすることはできません。
記録は簡単で構いません。「朝、ケース横で測定。暖房は停止中」「夜、同じ場所で測定。暖房の風がケースに当たっていた」のように書き、測定値を添えます。風が直接当たると分かったら、その場の問題を先に直します。長い測定記録がそろうまで、置き場所の改善を待つ必要はありません。
季節が変わったら、管理用品より先に環境を見直す
梅雨や夏には湿気が気になりますが、日差しと高温にも注意が必要です。みんふう楽器店の案内も、夏の車内放置や直射日光を避けるよう示しています。移動に使う車を、そのまま楽器の保管場所にしないようにしましょう。
秋から冬は、暖房の使い始めに置き場所を見直します。同じ部屋でも、暖房を使わなかった時期とは風の当たり方が変わります。加湿器を使う場合も、楽器へ直接当てないようにしてください。乾燥が気になるからといって、楽器だけへ集中的に湿気を与える考え方は避けます。
乾燥剤や湿度調整剤を使うなら、手元の楽器とケースに適した製品かを確認します。種類、量、置く位置、交換時期が分かってから使いましょう。専門店の案内に除湿剤が登場しても、それだけでは製品や量を選べません。すでに入っている用品の名称や使用開始日が分からない場合も、同じような物を足す前に確認します。
しばらく弾かないときは、再確認する日を決める
長期間使わない予定がある場合は、しまう前に棹、胴、皮と収納用品の状態を見ます。気になる破れや浮きがあるなら、その状態のまま長期保管してよいかを先に相談してください。通常の片づけ方を、破損した楽器の長期保管へそのまま広げないようにします。
不在期間に冷暖房を止めるなら、普段と同じ場所でも環境は変わります。何か月使わない予定か、その間にどの季節をまたぐか、家族が置き場所を変える可能性があるかを整理しておきましょう。その情報をもとに、確認の頻度と糸・駒・袋の扱いを決めます。
貸与楽器の資料には、長く演奏しない場合にケースから出し、直射日光の当たらない室内の空気に触れさせる案内があります。ここで示された時間や頻度は、貸与楽器の指定です。別の三味線に同じ周期を当てはめず、自分の楽器での扱いを確認したうえで、次に見る日を手帳などへ残しましょう。
再確認する日は、以前の写真と比べて皮や木部に変化がないかを見ます。人に管理を頼むなら、収納方法と連絡先を伝え、袋や管理用品を自己流で追加しないよう頼んでおくと行き違いを避けられます。
水濡れや変色を見つけた場合
白い点や変色、いつもと違うにおいがあっても、見た目だけでカビや原因を決めつけないようにしましょう。場所と発見日を残し、触る前に写真を撮ってください。袋やケースにも同じような変化があるかを添えると、相談時に経緯を伝えられます。
カビ取り剤やアルコールを使ったり、日光や温風で急いで乾かしたりする自己処置は控えます。水濡れや破れがある場合は演奏を中断し、楽器の種類と今の状態を購入店や修理店へ伝えてください。借りた楽器は貸し出し元へ連絡します。状態に応じた扱いが確認できるまで、通常の保管手順だけで済ませないことが大切です。
参考資料
材質と環境の説明には美邦堂、スズキ「ききょう」取扱説明書、みんふう楽器店のお手入れ方法を参照しました。邦楽普及拡大推進事業の資料は貸与楽器向けです。